遺産分割協議前の相続預貯金の払い戻し制度

1. 相続預貯金の払い戻し制度とは

預金口座をお持ちの方がお亡くなりになった場合に口座が凍結されると、相続人であっても引き出しが出来なくなってしまいます。葬儀代や病院への支払い、当面の生活費のために現金が必要であるのに引き出しができなくなることは相続人にとって不安な取り扱いでした。
そこで遺産分割協議前でも、一定の手続きを取ることで引き出しができるというものが相続預貯金の払い戻し制度です。
この制度には家庭裁判所の判断を経ずに払い出しができるものと、家庭裁判所の判断により払い戻しができるものの2つがあります。

2. 家庭裁判所の判断を経ずに払い出しをするもの

ⅰ 払い戻しができる金額

口座ごとに次の計算式で求めた金額の払い戻しができます。

相続開始日の預貯金額 × 1/3 × 当該払戻を行う共同相続人の法定相続分

※ 同一の金融機関からの払い戻しは150万円が上限です。
 複数の金融機関に口座をお持ちの場合は、別々に計算を行います。

ⅱ 必要書類
  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預貯金の払戻を受ける方の印鑑証明書
  • 預貯金の受ける方の本人確認書類

※ 金融機関にごとに取り扱いが異なる場合がありますので、詳しくは金融機関にお問い合わせください。

3. 家庭裁判所の判断により払い戻しをするもの

家庭裁判所の判断を経ずに単独で払い戻しをする場合は、上限金額が設定されていますので、上限金額より多くの金額が必要となった場合には、家庭裁判所に申し立てを行うことで上限金額よりも多くの金額の払い戻しを行うことができるという制度です。

ⅰ 払い戻しができる金額

裁判所が仮取得を認めた金額

ⅱ 必要書類
  • 家庭裁判所の審判書謄本
  • 預貯金の払い戻しを受ける方の印鑑証明書

4. 払い戻しを受けた預貯金の取扱い

この制度を利用して取得した預貯金は、払い戻しを受けた相続人が取得したものとして遺産分割協議を行うこととなります。

5. まとめ

この制度を利用するためには、戸籍謄本など必要書類を収集しなければならないため、葬儀費用などすぐに支払いが必要なものに充当する場合には時間的に難しいかもしれません。しかし遺産分割協議が整うまでの当面の生活費を確保するという面では、相続人の安心材料の一つになるのではないでしょうか。